小宮商店 KOMIYA SHOTEN

国産洋傘のパイオニア・仙女香坂本商店をめぐる物語
第一回 人と時を繋ぐ傘 

突然ですがこちらの年季の入った傘、なにかわかりますか?

仙女香 明治時代の日傘
仙女香 明治時代の日傘
仙女香 明治時代の日傘
1868年(明治元年)に創業した日本の洋傘業界のパイオニア、仙女香坂本商店が当時販売していた日傘です。 仙女香坂本商店は東京市京橋区、現在の東京都中央区銀座にて「仙女香(せんじょこう)」という白粉や「美玄香(びげんこう)」という白髪染めを販売していました。 特に仙女香はお洒落に敏感な当時の女性から人気を博し、歌舞伎役者が施す隈取の下地としても愛好されていたそうです。
文明開化の波は留まるところを知らず、化粧品をはじめとする輸入品が日ごとに街に溢れるようになります。 このままではいずれ淘汰されるであろう、そのような危機感を抱いた坂本商店五代目・坂本友寿は洋傘・日傘の輸入販売を始めました。

仙女香 坂本商店

時は鹿鳴館時代、日傘は高級装飾品として当時の社交界においては憧れのファッションアイテムであり、一般庶民にはなかなか手の出せない存在でした。 高級で贅沢で、なによりもお洒落でカワイイ。 美容品から洋傘という商材の大胆な切り替えには驚きますが、よくよく考えると仙女香も日傘もお洒落には欠かせないマストアイテムといえます。 扱う物は異なれど女性の美意識に応えたいという坂本友寿氏の意志が垣間見え、必然の流れだったと言えるかもしれません。

仙女香 傘屋 明治時代仙女香坂本商店 (『東京写真帖』より)

坂本友寿氏から六代目を継いだ坂本友七氏の行動力もまた、事業拡大という枠を超えてよりスケールの大きな美への信念から発揮されていたと言っても過言ではないでしょう。 当時は洋行自体が一部の限られた人間にしか許されませんでしたが、友七氏はパリを中心に五年もヨーロッパに滞在します。 その目的は、ヨーロッパをルーツとする洋傘・日傘の製造工程を学び日本国内初となる量産を行うため。 流行を追うだけに終わらず、さらなる美意識=理想を自らの手で形作ろうとするエネルギッシュな姿は、ものづくりに携わる現代の我々にも深く響きます。
2019年、小宮商店では仙女香坂本商店のオリジナルを参考に、レプリカモデルを完成させました。 当時の文献を紐解き、デザインや形、サイズに至るまで可能な限り再現し小宮商店のものづくりの矜持を結晶化できたと自負しています。

仙女香 日傘
仙女香
こちらは現在東日本橋ショップにて常設ディスプレイされ、ありがたいことにこの傘を見るために来た、というお客様も多くいらっしゃいます。 一本の傘を通して人と人が繋がる瞬間は、現場で働くスタッフにとっても何よりの喜びです。 特に最近はご購入の方はもちろん、シーズン前のメンテナンスにお持込下さるお客様が増えています。
「ここが壊れてしまって」
「どうすればもっと長く使用できるのかな」
「明るい色の傘はありますか?」
傘にまつわる話を中心に店内の雰囲気も活気にあふれています。 そんな中、つい先日修理にお越し下さったお客様が仰いました。
「ずっと昔の話だけど、私の一族は洋傘を販売していたんですよ」
その場に居合わせたスタッフは全員、耳をそばだてたとのこと。
どちらの傘屋さんか、ご存知ですか? との問いかけに、お客様は迷うことなくお答えくださいました。
「銀座の坂本商店です――」
この時はまだ、お客様の何気ない一言が私たちを新しい出会いへと導いてくれることになるとは夢にも思いませんでした。

次回、第二回目へとつづく

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