小宮商店 KOMIYA SHOTEN

ものづくりをつくるコトー天紙・天下という名前についてー

こんにちは。
工房の傘職人、田中です。

前回までご紹介してきた『ものづくりをつくる「モノ」』シリーズですが、今回は傘の加工において必要となる仕立てや作業にクローズアップした内容でお送りします。

「モノ」ではなく「コト」がテーマ。
シリーズタイトルも「ものづくりをつくるコト」にアレンジしてみました。
さて、今回は普段私たちが当たり前に使っている傘のパーツ名称についてのお話です。

初回の「ものづくりをつくるモノ」でお伝えした通り、傘には天紙というパーツが使用されています。
天紙とは、内側から覗いた時にてっぺんに見える歯車状の生地のことです。

さらに、外側からは見えませんが天紙の上には天下(てんした)という小さなチップ状の生地も挟まれています。
漏水の可能性が高い部分だからこそ、しっかりと補強し長く楽しんで頂くという心遣いの仕立てと言えます。
使用する材料も端切れとなり、さすがは代々受け継いできた先人の知恵、無駄がありません。
ところで、天紙と天下、この「天」とは何か……ずっと気になっていたのですが、最近ふと思い当たる機会に巡り合いました。

骨にセットされた状態の天紙と天下。
天下は正方形のチップ上の生地。
これからカバーが乗せられる待機中の状態、普段目にすることのない姿です。

傘のカバーは「コマ」と呼ばれる三角形の生地を縫製して製造され、縫う手順としては三角形の頂点から針を落とし底辺に向けてステッチを走らせていきます。

傘加工専用の特殊なミシンを使用する為、非常に高い技術が求められる作業のひとつであり、正確さに加えてステッチの安定を図る為一定のスピードも必要です。
技術と手際の良さ、まさに職人技が求められる工程です。

美しいステッチを走らせられるかどうかは針落としの正確さである程度決まります。
カバーが上手く縫製できているかどうかをチェックするポイントのひとつとして、縫い始めの箇所が上手くまとまっているかを確認することがあります。

同じ位置にしっかりと針が落せていれば、内側に織り込まれた三角形の頂点が、下の写真のような美しい星型の表情を見せてくれるのです。

この星、太陽に似ていると思いませんか? ヨーロッパの古い本の挿絵などで見た記憶があります。天下も天紙も、このまとまりが描く星の下にセットされるパーツです。
ぎざぎざした天紙自体を星または太陽と見立てることもできますが(というかこれまでそのように考えていました)、そうなると天紙の上にある天下がどうして「下」になるのかという疑問も拭えず……。
しかしなるほど、カバーのまとまりを天とすれば天下という呼称も違和感がありません。
「お天道様」という言葉がある通り、天はやはり星ではなく太陽だとも思うのです。

自らが仕立てた「かたち」と「ことば」が触れ合う瞬間、ルーティンな作業にもぐっと奥行きが生まれます。
視点を少し変えるだけで広がる想像の世界は、作り手だからこそ体験できる醍醐味と言えます。
やはり手を動かす仕事は、一見地味ながらクリエイティブな職種だと思いました。
みなさんも、日々の生活の中で当たり前に使用している言葉がどのような姿を持っているのかを意識してみると、意外と新しい発見に出会えるかもしれませんね。

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