小宮商店 KOMIYA SHOTEN

2019.02.07傘コラム

日本の洋傘産業の新事実、
じつは富士山に支えられてきた!

富士山の湧き水で深く、鮮やかな発色に

日本が誇る名峰、富士山。ふもとの甲斐の国(現山梨県)に広がる農業に適さない火山灰地では、唯一育ったのが桑の木でした。
その葉を餌とする養蚕業が盛んになり、絹織物から洋傘生地の産地へと発展したことは、前回までの掲載でお話しした通りです(☞不毛の地から洋傘生地の名産地となった甲斐の国)。

一方で、山梨が洋傘生地の産地になった主な理由が、実はもう一つあります。それは、富士山からもたらされる豊富な湧き水です。
洋服でも洋傘でも生地に色を着ける方法は、糸を染めてから織る「先染め」と、織ってから染める「後染め」の2種類があります。そのうち、山梨が伝統的に受け継いでいるのは、手間も時間もかかり、高級感のある生地に仕上がる先染めです。

先染めで大きなポイントとなるのが、染める工程に使う水。きれいな水であるほど、発色が良くなります。長い時をかけて溶岩層を通って地表に湧出してくる富士山の湧き水は、澄み切っており、ミネラルウォーターとしても大人気。その自然の恵みを受け、糸が深く、鮮やかに染まるのです。

一定の水温が美しい洋傘生地を安定的に生産

湧き水にはさらなるメリットがあります。それは、地下水であるため、年間を通じて水温が一定になること。
じつは、水温の高低によって色の染まり方は微妙に異なります。川の水などでは、当然のことながら夏場と冬場の水温が違うため、色を均一に保つことが難しくなります。
その点、水温がいつも同じ地下水であれば、色の出方も常に同じになります。富士山麓の山梨は、先染めの糸を大量生産すると同時に美しい洋傘生地を安定的に作り続けるのに、まさしく好適地なのです。

溶岩や火山灰による不毛な土地であるがゆえに、育まれた養蚕業と恵まれた湧き水。言ってみれば、日本の洋傘の発展は、富士山によって支えられてきたわけです。そして、今も山梨では先染めの洋傘生地が作られ、日本製の高級洋傘に使われています。富士山の恵みは昔と変わらず、洋傘産業を潤していると言えるでしょう。

さて、山梨では世界で唯一ともいえる、稀少な洋傘生地を作っていることにも触れなければならないでしょう。それは、「小幅の織物による洋傘生地」。今では貴重になった“シャトル織機”を使って生産されています。その物語はまた次回話すことにしましょう。

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