小宮商店 KOMIYA SHOTEN

2019.07.11傘コラム

傘づくりに欠かせない
“絶滅危惧種”のミシン

こんにちは。
今回の傘コラムを担当させていただく、傘職人見習いの小林です。
小宮商店の”傘の生き字引”満田氏から聞いた傘のあれこれを、わかりやすくお伝えできれば幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

傘を作る工程の中に「中縫い(なかぬい)」という、二等曲線三角形に裁断した生地の頂点に針落としの位置を決めてから、ミシンで一枚ずつ縫い合わせいく作業があります。
今回はこの中縫いに欠かすことのできない「ちょっと特別なミシン」について書かせてください。

単環縫いミシン

一本の糸のみで、
かぎ針で編むように縫う
「単環縫い」

小ぶりなフォルムのくすんだグリーンのミシン 、PEGASUS DHシリーズ。
傘づくりを行う私達の大事な「パートナー」です。

このミシンの特徴はその縫い目。
表から見ると、通常のミシンのステッチと何ら変わりないように見えるのですが、裏面は糸のループの連続で作られた鎖目になっています。
一般的なミシンで使う「下糸」を使わずに、一本の糸のみで、ちょうどかぎ針で編むように生地を縫うこのステッチの形式は「単環縫い」と呼ばれます。

かぎ針で編んだ編み目がよく伸び縮みして丈夫なのと同様に、単環縫いで縫われた傘の縫い目も弾力性に富んでいます。

傘は開いている時と閉じている時では、形状が全く異なりますよね。
当然、開いている時と閉じている時では、生地と生地をつなぐ縫い目にかかる負荷も違ってきます。
骨が生地を引っ張る力や、生地と生地の形作るしわのない美しくふんわりと丸いシルエットの実現は、伸縮性・弾力性に優れた単環縫いの縫い目が、ちょうどよい具合に負荷を緩和するからこそなせる技。
洋裁などに使われている、一般的な「本縫い」ミシンでは、生地同士を「留める」ことに重点が置かれているため、こうはいきません。

絶滅危惧種の貴重なミシン

美しい傘づくりに「単環縫いミシン」は絶対に欠かせない存在…
なのですが…

日本で洋傘づくりが始まった明治初めから、時代はめぐり令和の今日まで、
傘づくりには必須のアイテムとして使われてきたこの単環縫いミシン…

なんともう製造されていません!
絶滅危惧種なのです。

ほとんど市場に出回ることはありませんので、職人たちは手元にあるミシンを、大事に手入れをしながら使っています。
壊れても部品すら入手困難なため、自身で代用できるパーツを探し、カスタマイズしながら使う…なんてことも少なくありません。

単環縫いミシン 傘 制作

傘づくりの「大先輩」

私も自分専用のミシンが欲しいなあ、と考えていたのですが、そうそう簡単には見つからず。
探し続けて先日やっと入手することができました!
師匠から、「まともな縫い目が作れるようになるには、とりあえず1000枚くらいは縫わないとな」と熱い激励(?)を受け、1000本ノックを始めるべく、いそいそとメンテナンスを始めた次第です。

当然、入手したミシンは中古です。
やはり足りないパーツも結構あり、塗装がはげたり傷がついていたり。
このミシンは一体今まで何本の傘の中縫いをしてきたのだろうか。
眺めるたびにそんなことを考えます。

まだまだ現役で活躍し続ける、傘づくりの「大先輩」。
これからも末永く、よろしくお願いします。

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