小宮商店 KOMIYA SHOTEN

傘づくりが描く航跡-裁断台に広がる無数の裁ち跡-

工房にて傘づくりを担当している田中です。
あたたかな陽気に満ちた日が多くなり、季節はすっかり春ですね。
深呼吸をすると、空気もまた天日干しされたような朗らかさを湛えているような気がします。

ところでみなさんは二十四節気という言葉をご存知でしょうか。
紀元前四世紀ごろ、中国で生まれた四季や気候に基づいて一年を二十四に分別したものです。
現代とは異なり、先人たちの生活は天候や自然に大きく左右されたことは想像に難くありません。
自然に対するひとつの羅針盤として二十四節気があったのではと思われます。

4月20日は二十四節気によるところの「穀雨(こくう)」とされています。
穀物を潤す春雨が降る、とされる季節の定義のことですが、素敵な字面と響きを持った言葉ですよね。
雨の日も増えてきた今日この頃、「悪天候」と一蹴せずに敢えて「穀雨」と捉えてみる。
不思議と前向きな気持ちが実り始める気がします。

さて、今回ご案内するのは、傘を加工する上で重要な工程のひとつである裁断ですが、よりピンポイントに、裁断台に乗っているカッターマットに関してです。
こちらのカッターマットに広がる無数の白い線は、包丁によってついた跡です。
これまで工房では多くの見習いさんやベテランの職人さんが数え切れぬほどの裁断作業を行ってきました。

刃を入れ、一定の力で引き、生地を裁つ――。
このことを何度も繰り返すことによって、裁断という単純作業にも深みと技が生まれてきます。
言葉では説明できないポイントに溢れているためなかなか難しい作業ですが、取り組む眼差しはベテランも見習いも関係なく、真剣そのもの。
裁断台に広がるこれらの無数の刃の跡は、理想のものづくりへと邁進する情熱の航跡と言えるかもしれません。

文章を記しながら、目指すべきは「穀雨」を感じさせるような傘作りではないかなと思いました。
梅雨直前の工房は現在最盛期。
手にした方に「実り」を予感して頂けるようなものづくりを目指し、日々取り組んで参ります。

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