小宮商店 KOMIYA SHOTEN

2023.12.08傘屋の雑談

100年以上続く老舗メーカー「川上商店」の職人技が光る箸

製造部の田中です。
寒暖差の激しい日が続きますが、みなさんお元気にお過ごしでしょうか。

さて、今回は小宮商店からもほど近い、中央区馬喰町にお店を構える「川上商店」さんをご紹介します。
先日アップしました「浜町髙虎」さんと同じく、「中央区工芸ものづくりの会」に所属し、創業は1905年、100年以上続くお箸の製造・卸メーカーです。


丁寧に美しく並べられたお箸に、選ぶ楽しさも高まります

店内に足を踏み入れると、出迎えてくださったのは川上商店代表取締役の川上孝幸さん。
木材のもつ温かみを思わせるオリジナルの什器に並んだお箸を前に、その取り組みについてお話しくださいました。

「私たちが扱っているのは江戸唐木箸というお箸です。
江戸唐木箸とは、江戸を中心に紫檀・黒檀・鉄刀木(タガヤサン)という三大唐木と呼ばれている木材を加工して箸にしたことから始まります。
川上商店では稀少となったそれらの木材を現在も使用し、当時とほぼかわらない加工法を守りながらお箸を製造しています」
 
傘の手元(ハンドル部)にも紫檀や黒檀、鉄刀木が使用されていたことがあります。
いずれもとても硬く扱いが難しいと、手元職人さんから聞いたことを思い出しました。
美しい木目を備えているか否かは仕入れ時の状態では判断し難く、ただ唐木であればOKというわけにはいかないということでした。

「確かに木目にも唐木ならではの美しさというものが存在します。
ただ、江戸唐木箸が誕生した当時、お箸にするために材料として唐木を仕入れる、ということはありませんでした。
家具や建具に加工する中で生まれる唐木の端材を活かし、お箸にしていたと言われています。
素材や工法だけではなく、バックグラウンドも合わせることで江戸唐木箸としてより純度の高いものづくりにも再び取り組み始めているんですよ」


お箸の加工工程を示したディスプレイ。細かく変化する様子に奥深さを感じます

当時を生きる人々の仕事のあり方はまさに、明日をどう生きるかにありました。
江戸っ子の逞しいバイタリティを感じるお話に、背中を押される気分になります。
とはいえ、素材を選べないことは職人の仕事の質そのものにかかわるのではないでしょうか。
そもそも、職人技の光る美しいお箸とはどういうものがあるのでしょう。

「基本的にお箸が見せる職人技となるとどうしても装飾的な部分になってしまいます。
螺鈿を施したものなどは旅行先のお土産屋さんなどでもよく見かけますよね。
私たちの製造しているお箸となると、漆塗りの技術に職人の技を垣間見ることができます。
ただ、それはあって当たり前の技術ともいえます。
となると、箸の美学や美意識はどこにあるのかという話になりますが、私はシンプルにお箸の存在と役割そのものに息づいていると考えています」
そう言って見せてくれたのは川上商店でもベストセラーのひとつである八角先角先細箸のシリーズ。


凛とした姿に、背筋もピンと。美しいお箸は「食べる」という行為そのものにも美しさを与えてくれそうです

「こちらはお箸を構成する面の数が食い先(箸の先端)に向かって三段階に変化しています。
八角から始まり、四角を経て食い先に集約する。使用する個所を少し変えるだけで、食べ物をよりつまみやすく、口に運びやすくしてくれます。
お箸を使う目的は食事を楽しむためにあります。
料理はもちろんのこと、料理を作った料理人や素材を育てた農家さんなど、ひとつのお皿の上には多くの人の思いと技術、情熱が詰まっています。
お箸は最後にその思いを届ける大事な役目。
ストレスなく口に運べるという機能性と心意気が、美しいと思いませんか」

料理に使われる食材はすべて「いのち」であったことを考えると、お箸はいのちといのちを繋ぐ存在、そこに美しさを語る言葉はもはや必要ないのかもしれません。
一皿の料理に宿る食材への感謝と敬意は、生きることへの慈しみの気持であるとも言えます。
江戸唐木箸も端材を使うことから生まれました。
当時のものづくりの源泉に慈しみの想いを予感した瞬間、かつての職人から現代の職人へと、過去と現在が響き合う――目の前に並ぶお箸が、時空を超えて想いを繋ぐバトンのようにすら見えてきます。

取材の最後に、お箸を加工している作業場を見学させていただきました。
荒々しく回転する年季の入ったグラインダーの上で、素人目にはわからない絶妙な変化を施していく職人さんのまなざしが厳しくも力強く輝きます。


指先の微妙な感覚だけが頼り。お箸づくりそのものもまたシンプルがゆえに奥深い

最近では外国のお客様も増えて来たとのこと、その輝きはまた、日本古来のお箸の文化が世界に羽ばたく原動力であるとも言えるでしょう。
川上社長はじめ川上商店の皆さん、たくさんのことを勉強させていただきました。
ぜひ皆さまも、奥深いお箸の世界を堪能しに足を運んでみてくださいね。

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